いなりずし犬

雨が降っている。
 
肉球が濡れちまうぜ」オレは散歩を嫌がった、だがあいつはお構いなし。オレの体にハーネスを付け棒に引っ掛け肩に担いだ、飛脚の荷物みたいに。
「散歩に行くよ、あたらしい合羽を買ってもらったんだ」「そんなこと知るか、地面に下ろすなよ肉球が濡れちまうからな」
おニューの合羽はカラフルな水玉模様で床に敷けばツイスターゲームができそうだった。いつかしてやろう。
いつもの散歩道を5分も進むとオレの上半身、というか上半分はびちょびちょになった、大抵の動物は雨に濡れると落ち込む、シャワーや滝で濡れてもそうはならない、一番落ち込むのはコップの水か?そんなことを考えながらオレは飛行機の車輪みたいに脚を、次に頭としっぽを体の中にしまいこんだ、オレは少し特殊なレトリーバー、飛び出た部分を体にしまいこんでいい感じの長方形になれるのだ、昔テレビで「いなりずし犬」というのが流行ったことがある、覚えていないだろうか、あれがオレだ。
 
あの頃はよかった、楽しかった。朝のニュース番組の1コーナー「今日のいなりずし」ではいろんなところでいなりずしになった、病院(隣の病床で手術を控えた少年を励まし、病気の少年が仕切りのカーテンを開けるとオレがいる)、墓場(オレが供えられて食べ物の魂を食べようとしたジジイの幽霊が「犬魂(いぬたま)かじっちゃった!」とびっくりする)、遊園地(メリーゴーランドの馬に乗って、楽しい音楽と共にオレが廻る廻る(これがなかなか難しくてOKが出るまで何度も落っこちたりした))
あの頃オレはちゃんと特別だった、でも皆はだんだん飽きていって、オレはちょっとおもしろい芸ができる一般の犬に戻ったのだった。
 
久しぶりに「いなりずし」になった、はたからみたら棒に付いたデカデカいなりずし。なんだそれは。
 
この状態になると何も見えない、臭いや音もあまりわからない、ただただ振動を感じる、それがなんだか心地よいのだ、しばらくこうしていよう。
 
 
「.....い...........おーいってば」あいつにしつこくよばれておれは頭を出した。「ほらカエルがゲロゲロ言ってるよ」
見るとカエルがゲロを吐いてる。
「ゲロゲロ…」
オレはうんこがしたくなり、カエルの横に脱糞した。カエルはさらに激しく吐きだした。
「ゲロゲロー‼」
 
そして オレは言った。
 
肉球が濡れちゃった、帰ったら念入りに拭いてくれ」